心臓から拍出された血液は大動脈という全身で最も太い血管を通って全身に届けられます。この大動脈の内側の壁に亀裂が入り、大動脈が裂ける病気を大動脈解離といいます。命にかかわる重大なご病気の一つです。

 

　原因

　大動脈の裂ける原因は完全には明らかになっていませんが、動脈硬化と関連があるといわれています。
高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、ストレスなどの動脈硬化に関連する因子があると大動脈解離を起こしやすいとされています。またマルファン症候群やエーラースダンロス症候群などの先天的なご病気で血管に脆弱性がある場合にも大動脈解離を起こしやすいと考えられています。

 

　症状

　大動脈解離の症状の一番の特徴は、突然、胸あるいは背中に激痛が走ることです。解離が進むにつれ、痛みが胸から腹や腰などに移動する場合もあります。

大動脈はあらゆる臓器とつながっていますので、大動脈が解離するとあらゆる臓器の機能障害をきたすおそれがあります。脳に影響を及ぼすと麻痺（まひ）や意識の障害をきたすこともあり、脊髄に影響を及ぼすと、両下肢の麻痺をきたすこともあり（対麻痺ついまひ）、腸に影響を及ぼすと腸管が壊死して腹痛を及ぼします。

 

　検査

　最重要の検査はCT検査です。基本的には造影剤を使用して血液を鮮明に描出して検査を行います。大動脈解離の診断だけでなく発症起点、範囲、臓器の血流障害の有無などかなりの情報量を得ることができます。加えて心臓超音波検査で心臓の機能障害を確認したり、血液検査で腎臓や肝臓の数値の異常を確認したり、解離の際に上昇するDダイマーという数値の上昇の有無を確認します。

 

　治療

　治療は大動脈解離のタイプによって少し異なります。

 

• ▶︎Stanford（スタンフォード）A型急性大動脈解離
  心臓に近い大動脈である上行大動脈を巻き込む大動脈解離です。
  心臓や脳の血管が近いこともあり、命に直結しやすい大動脈解離です。早急な手術加療が必要です。大動脈解離の範囲が広い場合には、すべての血管を手術するためにはかなりの負担がかかり現実的ではありません。特に命に直結する部分の手術である上行置換術もしくは弓部置換術を行いますがいずれにしろ体へのご負担は少なくありません。

 

• ▶︎Stanford（スタンフォード）B型急性大動脈解離
  心臓に近い大動脈である上行大動脈を巻き込まない大動脈解離です。StanfordA型急性大動脈解離と比較して命にかかわるリスクは一段階低く、緊急手術ではなく安静で血圧管理を行う治療を行うことが多いですが、重症な状態であることには変わりありません。
  血管の状態が変化した場合には緊急手術に移行する場合があります。また、長期の安静臥床による体力の低下がありますので退院までに時間を要する場合もあります。

 

　いずれの大動脈解離のタイプでも退院時には発症前の体力に回復していることは少なく、退院後も継続してリハビリを行う必要があります。ただ、実際には大動脈解離自体は残存していることも多くご自身でのリハビリは困難であることが多く、医学管理下のリハビリテーションプログラムである心臓リハビリテーションが推奨されています。また残存している大動脈解離が悪化してこないか経時的に経過を見ていく必要もあります。

 

　予防

すべての大動脈解離を予防することは困難ですが、一定の大動脈解離は予防が可能です。

大動脈解離を予防するには、動脈硬化の予防が重要です。そのためには生活習慣の改善が重要となります。

• (1) 食事
  バランスの良い食事が重要です。塩分・糖分・脂肪分を取りすぎないようにしていただくことが大事です。飽和脂肪酸の多い肉やバターなどよりも、不飽和脂肪酸の多い魚やえごま油などを取るよう心掛けましょう。

 

• (2) 運動
  動脈硬化の予防には有酸素運動が重要です。

 

• (3) ストレス
  仕事のストレスなどを抱えている場合にはその緩和を考える必要があるかもしれません

 

• (4) 禁煙
  喫煙は動脈硬化を進めるだけでなく、様々ながんのリスクであることが明らかになっています。

 

　大動脈解離の兆候は画像検査で早期発見を行うことができる場合があります。
また、近年では弾性率という概念も注目されています。心臓ドックなどをご利用いただくことで確認していただくことも可能です。お気軽にご相談ください。