失神の原因と検査・治療
- 2024年4月6日
- 症状・病気
失神とは?
突然に起こる短い時間の意識の低下のことです。脳全体に十分な血液が供給されなくなったことにより起こります。医学的には「意識消失」と呼ばれています。
失神(意識消失)と意識障害の違いは?
両者の違いは意識レベルの低下が持続する時間にあります。
両者を医学的に区別する理由は原因となる病気として考えるべき病気が異なるからです。意識が低下する病気として脳の病気を想像しますが、意識消失の場合には脳が原因となっていることは極めて稀であるとされています。心臓の病気が関連している場合があり、その場合には命にかかわりますので心臓のご病気の確認が重要です。一方、意識障害に関しては脳の病気の確認が重要となってきます。
意識が低下した患者様が来院された場合には必ず一過性のものか遷延性のものかを確認し、それぞれに可能性のある病気をチェックする必要があります。
意識消失
短い時間の意識の低下
意識障害
長時間意識の低下が遷延
失神(意識消失)の原因となる病気
徐脈性不整脈
洞不全症候群というご病気や房室ブロックというご病気で脈拍が大きく低下することによって、脳の血流不足が生じて失神に至ります。これらのご病気を総じて徐脈性不整脈とよびます。前兆がないことが多く、寝ている状態でも起こります。命にかかわるご病気の一つであり、早期発見・早期治療が重要です。
大動脈弁狭窄症
心臓の出口にある大動脈弁が硬化し開放しなくなることによって脳への血流が低下することで起こります。動いているときに失神しやすい特徴があり、聴診すると心雑音を聴取する場合がほとんどです。大動脈弁狭窄症で意識消失が生じている場合には命にかかわるため早急な手術が必要です。
閉塞型肥大型心筋症
心臓の左心室の筋肉が肥大することにより心臓の出口を塞いでしまうご病気です。このご病気によって出口をふさいだり、不整脈を誘発することにより失神を起こします。不整脈は心室頻拍や心室細動などの命にかかわる不整脈につながる可能性があり早急な診断・治療が重要です。労作中に失神を起こしやすく、胸の痛みや息切れ・動悸などを伴うことが多いです。
急性大動脈解離
大動脈とよばれる体内の最も太い血管がさけるご病気です。多くの場合には背中や胸の激痛を伴いますが、そういった症状に乏しく失神のみを訴える場合もあります。失神に麻痺を合併している場合が多いですが麻痺がない患者様も経験します。失神の場合に大動脈解離が原因となっている頻度は多くありませんが、命にかかわるのでかならず念頭に入れることが重要です。
大動脈瘤破裂
腹部大動脈瘤や胸部大動脈瘤などの大動脈と呼ばれる血管が風船状に拡張する病気が進行し、破裂することによって起こります。多くは一気に大動脈から血液が流出して血圧が低下し、死亡に至りますが、時々、一旦持ちこたえて意識が回復して失神のような症状を呈する場合があります。腹痛や胸痛を伴っている場合には特に注意が必要です。一刻を争って緊急手術を行う必要があるご病気ですので早期に発見して早期に治療を行う必要があります。
肺塞栓症
肺動脈と呼ばれる心臓から肺へ向かう血管に血栓が詰まる病気です。特に胸痛や呼吸困難を伴う場合にはこのご病気を考える必要があります。
血圧の低下、脈拍の上昇、呼吸回数の上昇を伴っている場合が多く、手術後、肥満、悪性腫瘍などの要因で起こりやすくなります。このご病気も命にかかわる循環器のご病気です。早期診断・早期治療が重要です。
血管迷走神経反射
緊張やストレスなどが原因で血圧の低下や脈拍の減少などを起こし失神することです
人間は交感神経という自律神経と副交感神経という自律神経がバランスをとって円滑に活動をしています。しかし、これらのバランスが乱れて、副交感神経が有意になると血圧と脈拍の低下をきたし、失神を起こします。
持続時間は短く、多くの場合には前兆がありこのままだと倒れてしまうという自覚がある場合が多いです。立っているときに起こることが多いですが、時に座っているときにおこる場合もあります。痛みや暑さ、緊張、食事、咳などが誘因となって起こります。
状況失神
咳や排尿、排便、食事に伴って引き起こされる失神です。これも急激な自律神経バランスの変化によって起こります。引き金となる行為によって、副交感神経が有意となり、血圧低下を起こして失神に至ると考えられています。
起立性低血圧
急に立ち上がったり、起き上がることに伴い血圧が低下し、立ちくらみや失神を起こす病気です。立位になった直後に意識が低下するのが特徴で、脱水や貧血がある場合に起こりやすいご病気です。また、糖尿病やアミロイドーシスによって自律神経が障害されている場合にも起こりやすくなります。
パニック障害
突然になんのきっかけもなく動悸や呼吸困難、吐き気などのパニック発作が起こり、繰り返されるご病気です。多くの場合には不安神経症やうつ病、統合失調症などのご病気をお持ちであり、以前にも失神を起こされています。基本的に血圧や脈拍の変動が少ない場合が多く、しばしば過呼吸を伴います。
低血糖
体内の糖分が低下することによって起こります。通常は遷延して意識障害を起こしますが、意識消失と似た症状として起こる場合もあります。
糖尿病をお持ちの場合や糖尿病のお薬を服用されている場合には特に注意が必要です。また、アルコール依存症や感染症が引き金となっている場合もあります。
けいれん
厳密には意識レベルの低下が遷延する場合が多く、一過性の麻痺、失禁などを伴ったり、口や舌を噛んでしまう場合があります。てんかんや精神疾患、アルコール依存症などをお持ちの場合には特に注意が必要です。
失神(意識消失)の検査
基本的には全例で心電図を確認することが好ましいと考えられています。
心臓や血管のご病気を否定するためには血液検査や心臓超音波検査・胸部レントゲン検査・CT検査などを追加します。脳のご病気を調べるためにはCT検査、MRI検査、頸動脈エコー検査などを考慮します。また、失神が不整脈など心臓由来の場合にも検査時には心電図に異常を認めない場合もあります。しかし、その後再発をして命にかかわる場合もありますので、その場合には入院の上心電図波形を確認したり、ホルター心電図と呼ばれる24時間装着型心電図を用いて検査を行います。
失神の治療
原因によって治療はさまざまです。
心臓や血管のご病気が原因の場合には、心臓や血管の手術やペースメーカーの植え込みなどの治療を考慮する必要があります。
けいれんなどの場合には抗けいれん薬とよばれるお薬で治療を行います。
精神的な要因の場合には抗不安薬と呼ばれるお薬や抗うつ薬とよばれるお薬で治療を行います。
血管迷走神経反射や状況失神など自律神経が関与している場合には下肢ストッキング、塩分摂取、運動療法などをまず行い、それでも治療が困難な場合に薬物療法を行います。
失神の予防
失神を予防するためには規則正しい生活習慣を心がける必要があります。適度な運動や睡眠を心がけ、過度なストレスを避けることが大事です。また、喫煙や過度な飲酒によって起こる場合もありますので控えましょう。また健康診断や人間ドックなどで定期的に全身検索を行い、原因となりうるご病気を未然に発見することも大事です。当院では人間ドックにも力を入れていますので是非気軽にご相談ください。
最後に
失神はさまざまな病気によって起こります。その中には多くの重症で命にかかわるご病気が含まれます。早めに受診して大きなご病気でないか確認していただくことが大事だと考えます。
当院は土曜日・日曜日でも診療を行っております。気軽にご相談ください。
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